星と石ころ日記

神戸在住。風の吹くまま気の向くまま。

銀の雨

「看護婦さんてすごい。大変な仕事だね。人にも優しくなくちゃいけないし」
 
この仕事を選んだときから、もうずっと言われ続けた言葉。「白衣の天使」とか、「博愛精神のかたまり」みたいな誤解を受ける職業。
 
 
 
看護学生のときに病院実習に行った。5〜6人がグループになって、実習先の看護婦さんが指導についてくれて、ひとりずつ患者さんを受け持つ。一番難しいのは患者さんとのコミュニケーション。気を使って自分から話しかけてくれる人や、あからさまに嫌な顔をする人、どちらにしても学生の身としてはとてもつらい。だって病気の人に気を使わせるだけだもの。でもそれを経ないと一人前にはなれないし。
 
 
グループのひとり、Wさんの受け持ちはがん患者さんだった。いつも痛みを訴えて鎮痛剤をもらっておられた。それもだんだん効果がなくなり痛みに耐えておられる姿に、学生のWさんは詰所に帰って担当の看護婦さんに、「なんとかしてあげてください」と泣き出してしまった。
そんな彼女の姿を見て他の看護婦さんたちが「あの子だめだわ。この仕事向かないな。感受性が鋭すぎる」と話すのを聞いた。私はその意味がわからなかった。
 
 
 
私の受け持ちはKくんという20歳の胃がん患者さんだった。若いため進行が早く骨に転移していて末期状態だった。彼はなんと同じ実習グループのSさんと高校時代の同級生で、仲が良かったらしい。それで看護婦さんの許可をもらって実習以外のときにも、Sさんと私はお見舞いに行ってできる限りのお世話をしていた。
 
 
そんなふうにしていると感情移入してしまうもので、どんどん病状が悪化していくKくんのところに、実習が終わってもまるで身内のように毎日面会に行く私たちを、看護婦さんたちは心配してくれていたらしい。
 
 
面会に行っても何ができるというわけでもない。Kくんは松山千春の歌が好きで、私たちにもイヤホン越しに聞かせてくれた。骨転移のため痛みが強く、鎮痛剤もあまり効かないので私たちは背中や腰のマッサージをした。10分くらいすると、「ありがとう。楽になった」と微笑んでくれた。“そんなわけないじゃん!”って泣きたくなったけど泣くわけにはいかなかった。だってKくんが笑っているもの。
 
 
 
 
「Kくん、亡くなったよ」
 
 
 
看護婦さんがわざわざ学生寮まで知らせに来てくれた。Sさんは自宅から通っていたので、私はその知らせをひとりで聞かなければならなかった。Sさんに電話した後、一晩中彼の好きだった歌を聞いていた。外は雨が降っていた。
 
 
 
 
 
あれから時は過ぎ、今では人が亡くなっても泣くことはない。
 
 
「さすがに看護婦さんは人が死ぬことに慣れてるねえ」
 
 
そんな言葉にいちいち傷ついている自分がいる。
 
 
 
そんなとき、職業間違っちゃったかなって思うんだ。
 
 
 
 
<今日のBGM> 銀の雨/松山千春


コメント プレイバック

1.題名を見たときはすごくカッコいいと思ったのですが、中身よんだらすごく悲しくなりました。
というより17年間生きていたなかで、文章というものを読んで初めて涙がでました。しかも、長い小説ではなくそれほど長くない文章でです。
家の母は介護系の仕事に就いていて、やはり人が死ぬのには慣れてるそうなのですが慣れていない自分がその話しを聞くと信じられません。それに親戚が亡くなったときも平気な顔をしていたからです。慣れって怖いですね。
でも何かに感動したり悲しくて涙がでると、どこか人間らしいと感じてホッとします。正直ちょっと安心しました。
お仕事大変そうですが頑張ってください。これからもブログ楽しみにしてます。
Posted by ノブ at 2005年04月12日 20:38


2.ノブさん、コメントありがとうございます。
お母さんの言われる「慣れる」は、平気だとか悲しくないということではないと思います。うまく言えませんが、上手に心にフタができるようになった・・・という感じでしょうか。
Posted by Rinko at 2005年04月12日 22:48


3.(REACHに)また②来ていただいてありがとうございますww
お返事はこちらにも書こうとおもったのですが、本文の最大長を超えてるらしいので(笑)是非またREACHへ来てくださいなw

ほんとはもっと②色々書きたいのですが、今日は時間がなぃのでまたにします㊦
それでは♪
Posted by あい at 2005年04月14日 01:01


4.何度もレスしてスイマセン。でもこの日記読んだとき自分とかぶりました。私が介護の仕事を辞めた理由…。夜勤中、(グループホームなので一人で夜勤するのですが)一人の利用者さんの容態が急変してしまって…、その日は何事も無かったのですが、私は怖くて仕方が無かったです。夜勤が明けても、帰ることなんて出来なかった…。私も感受性が鋭すぎるとよく言われました。今、実はそのせいかはわからないのですが鬱症状もでてきてしまっています。仕事は辞めたのに鬱症状は酷くなる一方で…。
そんなあの日の夜勤の夜を思い出してしまった、Rinkoさんの日記。
でもRinkoさんは仕事に誇りを持ち逃げずに頑張っておられるのですね。私の母も看護師なので、気持ちに蓋をする、というの何だかわかるような気がします。母もよく言っていました。私は出来なくてそこから逃げ出しましたが…。
長くなってスイマセン。では、乱文本当に失礼しました。
Posted by ソラマメ at 2005年04月17日 00:57