星と石ころ日記

神戸在住。風の吹くまま気の向くまま。

 また手を振れるかな 夢が見えるかな〜「続・くだらない唄」


BUMP OF CHICKENというバンドの曲のほとんどは、藤原基央という人が詞を書いている。彼は26歳になったばかりでこのバンドのボーカルでもあるが、時々ぎょっとするような詞を書いて驚かせてくれる。
そんな曲のひとつに『続・くだらない唄』がある。
 
 
この曲はインディーズ時代に発売された2ndアルバムに収録されている。(このアルバムは昨年再発された)5年前のものだから、彼が20か21歳ころの詞だ。
 
 
 
プライドと夢を抱いて都会に出た「僕」が、やがて絶望し思い出の丘に帰ってきた。湖の見えるタンポポ丘の何ひとつ変わらない風景の中で、自分だけが変わってしまった。
自分の手につかんでいた夢も、自分の眼で見ていた明日の行方も壊されてしまうのか、間違っていたのか・・・・
 
 
生きる希望をなくした「僕」はその丘の桜の木の下で(首をつるのに)都合のいいヒモと台を見つけた。冗談半分にセッティングして台に立ってみたとき“マンガみたいな量の涙があふれてきた”
 
 
そして「僕」は数年前にも同じようにこの場所で泣いていたことを思い出して、朝日を待ちながらゆっくり立ち直っていく。
 
 
 
私がすごい、と思うのはこの詞がまったく個人的なつぶやき、または私小説的な風合いを持っているのに、聞く側が自分のことのように共感できてしまうというところだ。絶望してとことん落ち込んでいても、あるきっかけで自分のことが客観視できたら考え方を変えられる。そういえば以前にも同じように落ち込んだときがあって、それでもいつのまにかそれを乗り越えて笑えたじゃないか、そんな風に絶望と希望を繰り返して今までも生きてきたじゃないか、だからきっと今ここで踏ん張ればまた笑えるさ。そう言われているように思える。
 
 
前半はモノトーンの世界。
“この手は振れない 大事なモノを落とし過ぎた
この眼はあまりに 夢の見過ぎで悪くなった”
 
そして“あの日と違うのは僕だけ”
 
 
マンガみたいな量の涙があふれて、数年前のことを思い出してからは
“あの日の気持ちで朝日を待つ 
また手を振れるかな 夢が見えるかな”
 
“景色に色が付く”
 
 
この“景色に色が付く”という歌詞を聞いて、初めて前半の絶望が希望に変わっていく様が映画の1シーンのように感じられた。(白黒フィルムがゆっくり色づくときのような)“朝日を待つ”という言葉も、絶望の暗闇の中で希望の光が射してくるのを待っているのだろう。
 
 
 
そして、まだ手がゆっくり振れる、かろうじて眼が見えることに気づいてラストのひと言へと繋がっていく。
 
 
“あの日と違うのは ヒゲの生えた顔ぐらいさ”
 
 
ラストのこの言葉にしびれた。生きていく決意さえ感じられる強い言葉。
 
 
 
 
彼がすごいのは歌詞だけじゃなく唄の表現力。うまいヘタはよくわからないが、声が魅力的で表現が豊かだ。この唄でも、マンガみたいな量の涙があふれたあと、“数年前にもこの場所でよくこっそり泣いたっけ”のところ、少し笑いながら唄っている。意図してなのか自然にそうなったのかはわからないが、自分が思いつめている姿を、我に返った自分が見て笑っているように思えた。・・・そんな風に思うのは私だけかもしれないけど。
 
 
それにしても20歳そこそこでこんな歌詞が書けちゃうなんて。まさか実体験じゃないよね、藤くん。
 
 
 
 
 
 
<今日のBGM> 続・くだらない唄〜ランプ/BUMP OF CHICKEN




コメント プレイバック

1.毎日のあわただしさに、押しつぶされそうになります.日々の自分を振り返る時間さえも作れず喘いでいます.どうすれば倫子さんのように、情緒豊かに自分をぶんせきできるのでしょうか?うらやましいの一事です。
Posted by tomichan at 2005年04月14日 23:43


2.別のサイトで度々Rinkoさんの事お見かけしてました(何回かお話したこともあるかと思いますが、覚えていらっしゃらないかと思います)
ブログ拝見しました。私も藤原さんの描く世界観に共感してしまうことあります。同時にそれだけの感情をリスナーに抱かせる凄さがなんだか怖く思えることも…。世界を客観視出来る眼を持つ人、そこから未来をどう歩むかを見つける、または覚悟できているような藤原さんは私には尊敬と同時に怖いという感情も抱いてしまうのです。それは自分が負の感情を抱えたままそこから抜け出すことができないからなのか…?Rinkoさんのブログ拝見してそんな事を考えました。
乱文失礼いたしました。
Posted by ソラマメ at 2005年04月15日 10:54


3.こんばんは。この間は僕のしょーもないブログにコメントして下さってありがとうございました。
 続・くだらない唄…何でこんな歌詞を藤原さんはかけるんだろう?って思ってしまいます。まあどの曲も大抵そうなんですけど。
「景色に色がつく この手がゆっくり僕の右上で弧を描いた」
この部分が本当に好きです。もしも自分が曲を聴いて泣くことのできる人間だったら確実にそうしていただろうと思うぐらい…
 この歌はそれまでたいして音楽を聴いていなかった僕に、メロディだけが歌じゃないって思わせてくれました。歌詞が良いにしろメロディが良いにしろ(もちろん両方の場合も)思いが伝わってくる歌。それが本当に良い歌だと今では思ってます。
Posted by ks at 2005年04月15日 22:48


4.tomichan>記憶をなくすほど、飲まないように。(笑)

ソラマメさん>コメントありがとうございます。よく覚えてますよ!いつも真摯な姿勢でレスされてますよね。世界を客観視できる眼を持つ人・・・藤くんは私よりずいぶん若いですが、尊敬してます。

ksさん>しょーもないなんてとんでもない。ksさんのブログを見て、聞いてみたいアルバムをリストアップしてます。とくにピロウズの「LITTLE BUSTERS」。
Posted by Rinko at 2005年04月16日 09:27