星と石ころ日記

神戸在住。風の吹くまま気の向くまま。

いのちの期限

今日は久しぶりに学会に参加して、いろんなひとの話を聞いてきた。

最後のシンポジウムで話をされたAさんというエッセイストの女性。

「私が今日なぜこの場に立たせてもらったかというと、みなさんに私を見ていただきたかったからです。私は乳がんで、全身の骨に転移しています。」

そう話し始められたAさんの言葉に、ほとんどが医療従事者で埋め尽くされた会場が静まり返った。

自分の母親が以前子宮がんで治療を受けたが、治療をすればするほど悪くなっていったこと、だから自分は西洋医学に不信感を持っており、乳がんと診断されてからも治療を拒否し、民間療法をおこなっていたこと、胸に水がたまり息苦しくて動けなくなり病院に運ばれたとき、「ホスピスに入院したほうがいい」と言われて絶望したこと、などを淡々と話された。

そんなときにひとりの医師に出会い、西洋医学に対する不信感が拭い去られて治療を受け、ここに立てるようにまでなったが、今またもう一度抗がん剤の治療をしましょうと言われている、とのこと。

「ここにおられる医療従事者の方たちに、考えてほしい。患者に“余命”などとは言わないで。余ったいのちなんかいらないんです」

「“延命治療”と言うけど、延ばしてもらったいのちはいらない。そこに入ったら10年生きられるという部屋に入って6年生きるより、100歳まで生きられると聞いて喜んで1年生きるほうがいい。」

「あと何ヶ月生きられるとか、生存率とかの数字はいらない。がん患者100人のうち、ひとりでもそのひとに奇跡が起きたら、ほかのがん患者はそのひとに向かって生きるのです。ひとすじの希望があればいいんです。」

 

「ひとは、死に向かっては生きられない。」

 

からだの底から絞り出すように語られる言葉は、ぐさぐさわたしに刺さっていった。

現代医学では治療も限界、という状態になったらホスピスや緩和ケアの病棟で、そのひとの苦痛を取り除いてあげて最期のそのときまで人間らしく生きる。もちろんそれを望むひともたくさんいるだろう。そしてわたしもそれが最善だと思っていた。しかし、それは別の方向から見ると、治療を放棄した状態でもある。

Aさんのように最期の1秒まで望みを捨てずに生き抜きたい、と思っているひとにとってはそれは耐え難い苦痛なのだ。

Aさんはこうも言われた。

「緩和ケアで苦痛を和らげてあげるのはもちろん大切なことだけど、それでまた落ち着けばもう一度生きるために治療をしましょうと言ってほしい。」

「“今あなたのためにこういうことをしてあげるけど、次はあなたが私の(誰かの)ためにできることをしてくださいね”と言われたい。」

 

ひとは生きている以上、自分の存在に価値を見出したいと思うのだろう。それを見失ったときに自分のいのちを絶ったりするのか。逆に言えば、それを見失わない限り生き続けられるのかもしれない。

誰かに生かされていること=誰かを生かしていること。自分のいのちであって、自分ひとりのいのちではない。

Aさんが正しいと言うのではなく、Aさんはそういう生き方がしたいのだということ。大切なのは、それを認めること。

 

もうひとりの講師のひとが話しておられた。災害現場で助かったひとが共通して言われることがあるそうだ。「自分が死ぬとは思わなかった」

大切なことはふたつ。

 1.絶対に自分は死なないと思うこと。

 2.死ぬまで生きること。

 

自分自身で期限を切っちゃだめなんだ。明日のことは誰にもわからない。

それなら思い悩む前に、光の射すほうに向かって生きていく。




コメント プレイバック

1. Posted by meimei 2005年10月15日 18:23
Rinkoさん

患者さんのことを考えるのは本当に難しいです。
いつも悩みます。悩んでいます。

答えはでなくて、答えが欲しくてたまらなくなるときもあるけど、
どうしたらいいかわからないこともたくさんあるけど、
疲れることもあるけど、
私はいつも元気でいようと思っています。
人間として、人間である患者さんにむきあっていたいと思います。

そして自己満足にならないようにしようと思っています。

Rinkoさんありがとうございます。
ちょうど仕事やら何やら(笑)いろんなことがあって下向いてたけど、前、向けそうです。

長々ごめんなさい。また遊びに来ますね。


2. Posted by Rinko 2005年10月15日 18:51
meimeiさん>はっ!もしかして同業者ですか??
悩むこといっぱいです。人間相手だから答えはひとつじゃないと思うし、どの答えを選ぶかは自分の人生観によるのかな、と思ってみたり。もしそうだとしたら、とても恐ろしい職業ですね。(笑 もう笑うしかない)

最近ライブドアのコメント欄、調子悪いみたいです。ホリエモンになり代わりまして、ごめんなさい。笑


3. Posted by meimei 2005年10月15日 19:40
私は作業療法士なのでした。
初公開(笑)


4. Posted by Rinko 2005年10月15日 23:52
meimeiさん>わ〜、そうでしたか!職種としては、イトコみたいなもんですね。と言っても詳しく知らない世界なので、また教えてくださいね。(興味津々)